++Patrick
Suzkind++ |
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1949年ミュンヘンに近いシュタルンベルク湖畔のアムバッハ生まれ。ミュンヘンからフランスに移りエクス・アン・プロヴァンスで歴史を学ぶ。
早くから短編を書いてはいたが、あまり芽が出ず雑誌や新聞の編集者をしていた。小さな劇団のために書いた劇作『コントラバス』がスイスの出版社の目にとまり書下ろしで公刊したのが『香水-ある人殺しの物語-』ドイツ語圏で60万部のベストセラーとなったこの作品は23ヶ国で翻訳されている。 |
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コントラバス / 同学社 1988.11.1初版 訳:池田 信雄・山本直幸 |
ISBN4-8102-0201-X |
いやぁ…参りました、本書を見つけた瞬間は。大きな書店の棚を暇に任せて片っ端から眺めていたその時、『パトリック・ズュースキント』の文字が目に飛び込んできた。一瞬、私は固まった…まさにPCフリーズ同様、固まって動けなくなってしまったのだ。今まで手に入れていた2作では著者の日本語表記が『パトリック・ジュースキント』となっていたのだが、本書では“ジュ”が“ズュ”になっている。一体、どのように発音すればいいのか?もしかして別人?いや…同一人物のはず…?????私の頭はこんがらがりフリーズしてしまったのだ。とりあえず手にとって奥付を確認し、更に訳者あとがきに目を通す。間違いない、同一人物だった。ドイツ語の発音に忠実に表記しているのだろうが、発音の仕方が分からない…困った。いや、別に困らなくてもいいんだろうけど、困ってしまった私。それでも、本書は購入決定。同シリーズで出ているもう1冊の『鳩』を探すが、こちらは無いようだ…今回は諦めよう。とにかく、ページをめくるのが楽しみで仕方なかった。早く読みたかった…
1人芝居用の台本として書かれた本書は1981年にミュンヘンのキュヴィエ劇場で初演され成功を収めた。本書は1988年に東京OAGホールで演劇集団風童公演の台本に手を加えられたものである。1人芝居用であるから、登場人物は1人である。淡々とした語り口調で進む物語に私はどんどん惹き込まれていった。コントラバス奏者が語るグロテスクな愛、夢、希望、そして挫折。抜け出せない…抜け出したくない、不思議な世界にしばし浸った。読後、コントラバスが欲しくなった。
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香水-ある人殺しの物語 / 文芸春秋 1988.12.15初版 訳:池内紀 |
ISBN4-16-310660-X |
書店でふと目にとまった本書。タイトルもしかりだが私の目を奪ったのは訳者の池内氏の名前。なぜだか池内氏に憧れを抱く私は、苦手な歴史本であれ興味ない恋愛ものであれ、ついつい購入してしまうのだ。本書もあまり中身を確認せずに購入した一冊。ページを開くまでどんなものなのかサッパリわからないままだったのだ。
だが、購入して正解。実に面白い物語であった。主役は鼻。むせ返る悪臭から甘美な芳香まで様々な匂いが登場する中で、主人公のジャン=パディスト・グルヌイユだけが匂わない。そう…匂いのない男なのである。醜悪な姿に無愛想な顔つき、そして匂わない男、これだけで奇妙なのにグルヌイユは嗅覚だけは鋭敏なのだ。その嗅覚だけを頼りに生きていく主人公。まさに興味津々だ。
匂いにとり憑かれたグルヌイユは、ありとあらゆるものの匂いを精製していく。草花や食物は勿論のことガラスの匂いまでも精製しようと試みる。そう、グルヌイユにはガラスの匂いまでもが嗅げてしまうのだ。ガラスなんて匂いがあるのだろうか?私はそっと窓ガラスに鼻を近づけてみた。分からない…ただひんやりとツルンとした感触しかない。このガラスの匂いが嗅ぎ取れるなんて…不思議だった。
さて、そんな匂いだけを求めて生きるグルヌイユ…彼の最期は?どんな展開が待っているのか…みなさんもページを開いてみてくださいな。
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鳩 / 同学社 1989.5.24初版 訳:岩淵達治 |
ISBN4-8102-0202-X |
先の『コントラバス』を見つけてから約1ヶ月、ようやく手に入れることができた本書。書店から書店を探し回ったけど、結局どこも置いてなく、最後の手段としてネットで探す。しかし新本では見つからない…仕方ない、と諦めて古書で探して、ようやく見つけた。しかも初刷だった。なんてラッキーなんだ…しかし、先方から「棚に見つかりません」と謝罪のメールが…ガックリである。もう一度探そう、としていた2日後に「ありました」とのメール。やったぁ−!すぐに発注して、ようやく私の手元に届いた。もちろん、私はすぐにページをめくった。
町の片隅で平凡に生きる、どちらかというと目立たない初老の男、ジョナタン・ノエルのたった一昼夜の物語。冴えない男のたった一昼夜にいったい何が起こるのか?『鳩』…たかが一羽の鳩、されど鳩。たった一羽の鳩によってジョナタンは今までの平凡な生活を奪われてしまった。どうなる?!ジョナタン…
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ゾマーさんのこと / 文芸春秋 1992.11.25初版 画家:ジャン=ジャック・サンペ 訳:池内紀 |
ISBN4-16-313620-7 |
ジュースキント氏からのちいさな贈り物。挿絵はジャン=ジャック・サンペ。優しい絵とほのぼのとする文体についつい惹きこまれ心温まる一冊である。
ゾマーさんて誰?『ぼく』が住んでいる村で誰一人知らないものは居ないという有名なおじさん『ゾマーさん』がいた。どこから来たのか、どんな人なのかは誰も知らない。だけどみんなゾマーさんのことを知っている。いつもながい杖をつきスタスタと歩いている。ゾマーさんを見かけるのはいつも歩いてる姿…とても速い。そんなゾマーさんの声を『ぼく』は一度だけ聞いた…たった一度だけ。
『ぼく』の少年らしいやんちゃぶりと『ゾマーさん』の奇妙で滑稽で、それでいてどこか哀しい姿…ゾマーさんはどこへ向かっているのか。何を思っているのか。それを想像しながら読むのは、とてもワクワクする。ハートフルな贈り物をありがとう、P・ジュースキント氏そしてジャン=J・サンペ氏。
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